「よお竜さん」
「字ぐらいまともに呼べないのか」
眉間に皺を寄せ、趙雲は簡雍に背中を向けたまま答える。
「冷たいねえ、だからモテないんだよ」
呆れたように、彼は趙雲の寝台に身体を投げ出す。
そんな彼を横目で眺める趙雲。やがて呆れたように近くの毛布を投げつける。
それは、彼なりの反抗の現れなのかもしれない。
「でだ、どうなんだ?」
受け取った毛布に潜りながら、簡雍は彼に訊ねる。もちろん、あくびを交え。
「何がだ」
「決まってるだろ、きん…何とか」
「『錦馬超』か?」
「そ、俺が見立てたんだけどよ、あまり人になつかないのな」
背中姿の趙雲は首を傾げる。
「どう考えてもあんたには懐かないだろうな、懐かれても困る」
…で?と振り返る趙雲。
「何をしに来た」
先程趙雲の投げた物より明らかに枚数の多い毛布を身にまとい、簡雍はにやりと笑った。
「喜べ、お前を涼州方面親睦大使に任命してきてやったぞ!」
気がつけば、そこには酒瓶が握られている。
いや、部屋に入ったときから趙雲は気付いていた。…だが、認めたくなかったのだ。
「…そのようなこと、孔明殿が」
「ぐんしぃには許させたんだなあこれが」
思わず額を押える趙雲。今の彼の言葉はつまり、数刻後には、不機嫌極まりない「ぐんしぃ」の相手をしなければならないという事も示していたからだった。
「っつーことで宴会するからねえちゃん呼んできてくれ、な?」
「は?」
思わず声が出る趙雲。
「は?じゃないだろー!宴会っていったらねえちゃん!酒とねえちゃんだよ!竜さんならべっぴんさん集められるだろ?」
「…私が集めろと」
「当然だ」
さも当然のごとく、笑いながら寝台の上でふんぞり返る毛布だるまこと簡雍。先程、「モテない」と言ったことはすっかり忘れているようだった。
「さ、わかったらきびきび働け?胆が泣いてるぞ?」
「…解る訳がないだろう」
「解れ」
「有無を言わさぬな」
「当たり前だぜ、竜ちゃん」
「竜ちゃんはやめてくれ」
「…ま、がんばってくれたらぐんしぃに特別手当ぐらいは掛け合ってやっからさ!」
再び、頭を押える趙雲。その脳裡には「不機嫌ぐんしぃ」が雷を落とす姿が浮かんでいた。
もちろん、その晩は「とんでもないこと」になったのは言うまでもない。
以下は上の文で拍手を頂き、そこより派生したネタです。
――趙雲に羽交い締めにされ、ばたばたと暴れる馬超。
「子竜殿、放してくれ、俺はあいつを殴らねば気が済まない!」
「落ち着け、孟起殿」
「落ち着けるか!…なんだよっもーきょんって!」
叫びながら、なおもばたばたと暴れる馬超、その胸元には馬岱が抱きつき、つまりは二人がかりで彼を抑えている格好である。
「従兄上!落ち着いてくださーい!」
「だから…岱!お前だってたいやんって言われて落ち着けるのか!」
「我慢してくれ、孟起殿」
「なぜだ、何故俺が…!」
俺が、と叫びつつも、馬超は腕を下ろす。趙雲の話に耳を傾ける気になったようだ。
「…私も憲和殿に殴りかかったことがある」
趙雲は劉備達と楽しそうに話す簡雍を眺め呟いた。
「ならば何故っ」
「…何故か勝てぬのだ、経験の違いであろうか…だから、もーきょん、」
「おいっ!」
「……す、すまない、孟起殿、我慢をしてくれないか、今だけでも、だ」
漸く、彼の言葉を耳に入れ、席に着いた馬超を眺め、ほっとした趙雲だった。
- 作品名
- 趙雲さんと簡雍さん
- 登録日時
- 2009/05/28(木) 00:00
- 分類
- 文::小ネタ・ジャンル混ぜ