「子竜殿」
wait action
彼らがいたのはかちゃかちゃと食器のぶつかり合い、小柄な店員がせわしなく泳ぐ小さな飯店。
こぢんまりとしたつくりのせいもあろうか、明らかに空間以上に客が詰め込まれた店内で、肩を寄せ合い飯と野菜の炒め物に手を着けていた二人の男性、そのうちの片方が口を開いたのだった。
子竜殿、と呼ばれた男性、子竜は字で名を趙雲と言う、は隣の男性を目で促し、飯を口に運んだ。
「混み合った食事処って好きなんですよね」
嬉しそうに笑顔を浮かべ、飯を頬張っているのは、諸葛亮、字は孔明であった。
「なぜだ」
うんざりしたような表情で趙雲は諸葛亮を眺める。それもそのはず、大柄な彼は先程から行き交う客や店員にぶつかり続けているからであった。もちろん、諸葛亮が話をしている間さえ。
「あれですよ」
だが、そんな趙雲にはお構いなしに、諸葛亮はにこりと笑うと店の外を指差す。
「…あれとは、並んでいる客か?」
趙雲はすぐに彼の手を卓に押さえつけると聞き返す。
先程、彼が指差したのは店の外にはまだ入りきらない客が列をなし、彼らのいる店の中を睨みつけるようにながめている光景であった。
「そうです」
眺めながら、食の恨みとは恐ろしい、そう心の中で独り言を呟いていた趙雲の、耳に何かが当たった。視線を逸らし、趙雲は細めていた目を緩める。
耳に当たった何かは、諸葛亮の手であった。彼はわざわざ箸を止め、彼に耳打ちを促しているのだった。
「どういうことだ、外の客と孔明殿と何か関係でもあるというのか」
理解できない。内心そう思う。だが
「ありますよ!」
耳打ちを促す諸葛亮に即答され、…どうやらため息すらつく間も与えられないようである、趙雲は彼を見つめ、そっと彼の手に耳を当てた。
「簡単な事です」
勿体ぶった様子で、諸葛亮はひとつ息を吸い込んだ。
そして、口を開いた。
「中から並んでいる人を見ると優越感に浸れませんか?」
趙雲の箸が止まる。
「おや、どうかなされましたか」
「……何もないが」
軽く俯き箸を動かす趙雲だったが、諸葛亮が彼の顔を覗いながら呟いた言葉に思わず口の中のものを噴き出してしまうのであった。
「子竜殿はそうではないようですね…殿にはご賛同頂けたのに」
- 作品名
- wait action(諸&趙)
- 登録日時
- 2009/08/05(水) 00:00
- 分類
- 文::小ネタ・ジャンル混ぜ