主騎とは、面倒でもあるものだ。
横で孔明殿が木簡を睨み、唸っている。相当、苛々しているようだ。
私は槍を抱えたまま、それを覗き込む。
慌て、それの上に覆い被さる孔明殿。
「何故見るのですか」
眉を「ハ」の字に歪め、孔明殿は必死に木簡の中身を隠している。
「内容は」
「教えませんが……単純な計算です」
「教えているでは」
「うるさい!……です」
ふう、と溜息をついた。すると、孔明殿は私を睨み、
「嫌な主騎ですね」
と呟いた。
「ああ、嫌な主騎だ」
頷く私。そのまま、私は木簡に手を伸ばす。
「あ」
孔明殿が叫ぶ。なぜなら、
「返して下さい!」
私がその木簡を取り上げたからだった。
「返せぬ」
「なぜ」
ひとつ溜息。これは私のものだった。
「孟起殿に早く参謀をつけてくれ、西涼の王子様は五月蠅くてな」
そう孔明殿の方を向きながら、私は取り上げた木簡を広げると、自ら筆を取った。
そんな私を尻目に、孔明殿はぶつぶつ呟きながらも、漸く人事の書かれている木簡を手に取った。
主騎とは、面倒でもあるものだ。
「意外です、子竜殿が計算も出来るとは」
孔明殿が筆を動かしながら口を開く。
「兄が私塾の教師だった」
私も筆を止めず答える。
「……先生、ですか」
それきり、すらすらと筆の滑る音だけが響き続けた。
面倒であるものだ、主君を見て見ぬふりが出来ぬからな。
……特に、この主君は。
私は内心呟くと、次の木簡に手を伸ばした。
- 作品名
- おひとよしゅき(趙雲&諸葛亮)
- 登録日時
- 2009/09/12(土) 00:00
- 分類
- 文::小ネタ・ジャンル混ぜ