大きな盥に大小の緑色が砕かれた氷と共にきらめく昼下がり。
その緑の中のひとつ、いや一本の緑色の細長い棒を片手に石の長椅子に座り、ふうっと溜息を吐いているのは関平。
彼は隣で項垂れる青年を眺めて声をかけた。
「ねえ、岱殿」
しかし返事はない。
彼は盥より同じような大きさの棒を取り出すと隣にいる馬岱の頬にくっつけた。
「なっ」
目を丸くし、関平の顔と緑の棒を交互に眺めた。
「岱殿、やはり」
「ん、……特に今日は暑いからな」
関平に礼をいいつつそれを受け取ると、彼は勢いよくかぶりつく。
「北方出身には辛いな」
みるみるうちに短くなっていく馬岱のそれを眺めながら関平もまた奥歯でそれにかじりついた。
そして、もう一度溜息をつく。
「暑いなぁ」
その時、関平の隣の盥より水音が上がり、二人の青年は振り返った。
「堪らないな」
音を立てたのは、氷に手を浸した彼らよりやや年上の青年だった。
「子竜殿」
「ひりゅうろの」
一騎当千の猛将と呼ばれるその青年もまた、暑さには勝てないのか辛そうな表情に玉の汗を浮かべながら同じような緑の瓜を取り出すと、
「岱殿、暑いのは解るが飲み込んでから喋ってはくれないか」
と呆れた表情を浮かべ、長椅子に腰を下ろした。
「……こう暑いとどうしてもな」
「諸葛丞相殿はどうなさったんです?」
首を傾げて訊ねる関平に趙雲は少しばかりうんざりした表情を浮かべ応えた。
「暑くて堪らないから昼寝をしてくると申して出て行ったきりになる」
「うわぁ、……干からびていないといいんですけれど」
「お代わり」を馬岱と趙雲に渡しながら関平は苦笑いを浮かべる。
「で、子竜殿は」
「ああ、そうだった、実は伯約殿と孟起殿から伝言を預かっていたんだ」
えっ、と二人は振り返る。
「……子竜殿がお忘れになるなんて珍しい」
「本当だねえ……で、なんて仰ってたんですか?」
関平の質問に答えようと趙雲が口を開いたその時だった。
「よお!集めてくれたのか?」
楽しそうな声が彼らのいる広場に響く。
「孟起殿!」
「従兄上!」
振り返った三人の青年の視線の先にいたのは馬超だった。その胸には大きな虎縞の入った瓜らしきものを抱えている。
「えっと、……それは」
首を傾げる馬岱に、彼は子竜に聞いてないのか、と笑った。
その彼の後ろより、一人の青年がひょこっと顔を覗かせ、二人に向かって手を振りながら口を開く。
「これはそこの農夫の方より分けて頂いたんですよ……せっかくですし皆で頂きませんか?」
「賛成!」
その青年、姜維の言葉に真っ先に手を挙げたのは関平であった。
「まあ、もとよりそのつもりだったのだけどな」
笑いながら立ち上がり、馬超の抱えるそれを見る趙雲。
「冷えているのかそれ」
「いや、……その盥に入れてもいいか?」
訊ねる馬超に、関平は大丈夫です、と応え指差した。
「そろそろいいでしょうか」
「冷えましたね」
「豪快に割って食うってのも美味そうだよな」
盥を囲み思い思いの言葉を呟く一同。
彼らから少し距離を取り、包丁を拭う趙雲。
穏やかな笑みを浮かべていた彼の表情が、突然固まった。
「おーい子竜!」
趙雲を呼ぶ馬超。……すぐに、彼の返事がないことに気付いた。
「子竜ー!」
一同が趙雲の方を向く。趙雲の表情は固まり、彼らの後ろを眺めていた。
……それに気付く、わずか前。
姜維の首に手が回され、
「ひええええ、じょ、丞相!?」
彼は手の主を見つめ悲鳴を上げた。
「げっ」
「……どういうことですか」
丞相、こと諸葛亮を見つめ。
「これは、えーと」
「私には内緒なんですね」
「そういうわけでは…」
包丁を置き彼らの元へ駆けつけた趙雲が口を開いたが。
「この西瓜は没収します」
悪魔のような笑みに、項垂れないものはいなかったという。
「……丞相って西瓜好きだったんですか?」
「いや、初耳だが仲間はずれが嫌だったのではないだろうか」
「えー?」
「聞こえてますよそこ!あと、わりと好きな部類に入ります」
- 作品名
- 瓜(若者達と趙諸馬/西瓜)
- 登録日時
- 2010/08/13(金) 00:00
- 分類
- 文::小ネタ・ジャンル混ぜ