「いい加減にしろよ」
見下ろす趙雲の足許に血を吐き捨てると馬超はギッと彼を見上げた。その顔は、その頬は、痛々しいまでに腫れ上がっている。
「……どういうことだ」
彼の言葉に反応するように、口元に軽く笑みを浮かべ、趙雲は槍を握る手に力を込めた。
「見下すなと言っているんだ」
good distance
二人の顔を交互におろおろと困った顔で見つめる青年を尻目に、再び、血反吐を吐き出すと馬超は立ち上がる。
錦馬超という文字からは程遠くなってしまったその顔の割に、しっかりした足取りだった。
「おっ、お二人ともっ」
おろおろを続ける青年。だが、完全に二人より相手にされていないのを察すると、
「見下したつもりはないが」
胸のあたりで手を組み、趙雲からも馬超からも視線を逸らした。
そんな青年を横目で眺め、趙雲はなおも続ける。
「だが今は見下ろしたな、申し訳ない」
「違うだろ!」
それは突然のことであった。
ぎいん、と鈍い金属の音が響いた。きゅっ、と傍の青年が瞳を閉じる。
たった一回の、ぶつかる音。
彼がそれに違和感を感じ、ゆっくりと瞳を開くと馬超が趙雲にぶつかっているところであった。
更にしばらく、趙雲を睨みつけていた馬超だったが、口の端をゆっくりと上げ、言葉を口にした。
「謝る代わりにボコボコにさせろ」
彼のそれに、趙雲の眉が僅かに上がりすぐに笑みを浮かべる。
「出来るものならばな……手加減は無用だ」
二人は距離を取り、再びぶつかり合った。
「子竜殿らしくないよね」
青年ははっ、と振り返る。
彼が思っていたよりすぐ近くには、年の頃、彼とさほど変わらぬ青年が二人を見てにやりと笑っていた。
「岱殿、いったいそれは、いや、」
彼はひとつ頷いてその青年、馬岱の肩を叩く。
馬岱は、彼を見つめながらにやりと笑うその顔を崩さずに答える。
「ん、どうしたんだ、平殿」
「止めなくていいの?従兄さんが殴り合いしているのに」
心配そうに見つめる青年、関平の顔を横目で眺め、馬岱は大丈夫大丈夫と軽やかに笑った。
「相手が子竜殿だから」
「だからだよ!下手したら死んじゃうだろ!」
慌てて彼の台詞に突っ込むと何とかして止めようとすべく、もはや殴り合いと化した趙雲と馬超の手合わせを見つめる。
「だから大丈夫だって」
「……それはいったい、」
「だってさ、よく見てみなよ、二人とも手加減してるだろ?」
彼にそう言われ、二人をまじまじと眺め、関平はくすりと笑った。
確かに、よくよく見れば、二人の猛将はあえて急所を外し、殴り合っている、
「と、いうかつねりあい、してるのか、な?」
そんな様子を眺めながら馬岱もまた笑っている。
「ね」
「そうだねぇ……ってあっ」
突然大声を上げた関平に、馬岱は口を丸く開け、驚いた表情を浮かべる。
「な、なんだよ……!」
「子竜殿、孟起殿っ」
続けて上げた大声に、趙雲と馬超もさすがに驚いたのか、お互いの口を左右に伸ばしたまま硬直し、
「ろうしら、はんへい」
「あ?」
しかしそこは歴戦の猛将たち、すぐに戻ると、そのままの体勢で少しばかり間抜けな問いかけを返した。
「あ、じゃないです、おれ、いえ私、諸葛丞相にお二人を呼んでくるように言われてまして」
「へ」
「……へ」
再び固まる二人。
「じゃあ」
馬岱が首を傾げた。
「丞相は、」
それに答えようと関平が口を開いたその時だった。
雷のような怒号が、城内を切り裂いた。
「ああ」
三度固まる二人と、関平に馬岱。
もちろん、後に雷が直撃したのは言うまでもない。
- 作品名
- good distance(馬超&趙雲/けんかともだち!)
- 登録日時
- 2010/08/30(月) 00:00
- 分類
- 文::小ネタ・ジャンル混ぜ