いつものように丞相府を訪れた趙雲、だが出迎えは「いつもの」とは違っていた。
それはしっ、と唇に人差し指を当て、少し険しい顔で彼を見る姜維であった。
その表情に圧され彼が口を引き結ぶと険しい顔が緩やかになり、趙雲はちょいちょい、と手招きをされた。
一体何事か、と思いなるべく音を立てぬように彼の横まで歩みより、すべて納得がいく。
姜維の視線の先、一人の青年が眠りに就いていたのだった。
それは二人がよく知る人物、この部屋の主、諸葛孔明だった。
「すみません」
小声で謝る姜維。それに対し趙雲は軽く横に首を振り、伯約殿は何をしていたのだ?と質問を投げる。
その瞬間、彼はにっ、と微笑み、師の頬にそっと触れる。
「丞相の頬、柔らかいんですよ」
そう言いつつ、師の頬をつつく姜維。
あまりに楽しそうなその行為を眺めるだけであった趙雲もやがてつられるように手をおそるおそる伸ばし、孔明の頬に触れる。
「……ふっくらしているな」
「でしょう?」
そう、趙雲に並ぶほどの背をもち、ひょろっとした見た目とは裏腹に、彼の頬は
「饅頭」
の様であり、彼の発言が真を突いていたのか姜維は思わず噴き出してしまうのだった。
そのまま二人は無心に触れ続ける。
が。
「こーめーどのっ!馬孟起、用事があって参った!」
無駄に明るく朗々とした声が部屋に響き渡る。
そのあまりの賑々しさに、慌てて振り返り、唇に人差し指を当て、静かに!とたしなめる趙雲と姜維の二人だったが、すでに遅かったようだ。
「おー、子龍殿に伯約殿!どうしたんだ?」
「も、孟起殿っ」
気にせぬ様子でずいずいと歩を進めてくる彼を止める二人の、頬に触れていた手の手首がガシッと掴まれ、姜維の頬に冷や汗が走る。
手首にこもった力のあまり、彼の方を振り向けずにいる二人の耳に、低い声が響くのだった。
「おはようございます、子龍殿に伯約…そして孟起殿」
「お、おはようございます」
ひきつった笑みを浮かべる姜維に向かい、彼はふふっと笑むと
「私の頬はどうでしたか?」
訊ねた。
その言葉に姜維はすっかり固まってしまうのだった。
痛む頬を押さえながら眉間に皺を寄せる趙雲。
「待て子龍解るように説明してくれ」
机の向かいに腰を下ろし頭を抱える馬超。だが
「孔明殿につねられた、そういうことだ」
それだけを呟くと彼の頬に自らの手を添える。
「し、子龍?」
頬にそっと添えられた手に戸惑う馬超。そんな彼をじっと見据えると
「孟起殿、覚悟するのだな」
趙雲は手に力を入れた。
- 作品名
- funi.
- 登録日時
- 2008/12/30(火) 00:00
- 分類
- 文::三國無双