くしゅん、という音がそこに響き、馬超は振り返った。
彼の視線の先、机に座り書き物をしていたであろう一人の青年が鼻を軽く押さえ、空いた手を彼に向かって振る。
……大丈夫です、と。
しばらく青年を眺めていた馬超だったが、やがて書き物をしていた机に向かうと、徐に席を立った。
「ど」
どうしました、そう口にしようとした青年、姜維であった。
だが、それよりも早く、彼の頭に白い雲のような固まりが投げられた。
「んんっ!?」
勢いよく投げられたその固まりに、仰け反りながら姜維はそれを横になりながらも受け止め、ゆっくりと広げた。
「も、もうきどの?これは?」
雲のように見えたそれは、よく眺めると羊の毛を編んだ外套であった。
「俺が涼州にいたときに使ってた奴だ、暖かさは保証するぞ」
彼が馬超を見上げると、彼は笑いながら、そう口にした。
「羊、ですね」
広げた外套を、そっと肩に羽織ると、姜維はそれを軽く叩く。
「ああ、馬岱の奴の家で飼ってたんだだよな」
「岱殿の家で…じゃあ」
「ああ」
頷く馬超。続いて、人差し指をピッと立てると口を開いた。
「春先は戦争」
綺麗に二人の声が重なる。
「やっぱり」
姜維が微笑む。
「私も蹴られたことがあります」
「飛び越えたことはあるのか?」
「もちろん」
姜維が頷き、書き物を再び始めると、馬超は暫く彼の顔を覗き込んでいたが、やがて大きくゆっくり頷いた。
「しっかし意外だな」
まさか伯約と羊の話が出来るとは、そう呟きながら頷き続ける馬超。
そんな彼に対し、私こそ意外です、と姜維は首を傾げた。
「孟起殿は、羊を好きではないと思っていました」
「ん、そうか?…俺は羊、嫌いじゃないぞ」
もう一回頷く馬超。彼は姜維をまじまじと眺めると、
「そういえば伯約って羊に似ているな」
口を開いた。
「そうですね……え?」
一拍の後、慌てて馬超の方を見る姜維だった。しかし彼はもう、いや、いつの間にやら、書き物を始めていたらしく、机に向かい、熱心に木簡に何かを書き込んでいた。
空耳?自分にそう問いかけながらも、姜維もまた、手にしていた筆を滑らせ始めるのであった。
- 作品名
- sheep horse(馬&姜/羊みたいな)
- 登録日時
- 2009/09/24(木) 00:00
- 分類
- 文::三國無双