「どう思われます、子龍殿」
姜維が足を止め、振り返る。
「どう、とは?」
続いて足を止め、そばにあった箱を叩きながら訊ねる趙雲。
「文長殿に取り返して欲しいとは言われましたが」
「殿にもらった物か」
「ええ」
彼が頷くと、後ろの少女も、何かを口にすることは無かったが、ひとつ、頷いた。
「なんなのでしょうね?」
趙雲はそこで箱を再び叩く。鈍い音が彼らの耳に響いた。
彼が手を離すと同時に、姜維の槍がそれに振り下ろされ、飾りのついた箱はいともあっさりと崩れる。
「本人に訊いても「劉備がくれた」しか言わないからな」
そう呟くと、箱の破片から薄緑色の彫り物を取り出す。翡翠で出来たそれは、龍の形をしていた。
「少なくともこれではなさそうだな…となると」
「五右衛門が持っているのですね…どうしたんです、星彩殿」
趙雲の手にしていた彫り物を見つめていた姜維が、ふ、と隣の少女を見、不思議そうに訊ねた。
「これではないかしら」
生まれつきの物か、ぶっきらぼうな口調で砕けた破片から何かを取り出し、二人に差し出した。
「星彩…これは」
それは、木彫りの仮面であった。
…丁寧に彫られ、南蛮の物だと言われれば納得しうるような独特の模様があり、不思議な雰囲気を醸し出している。
ただ、彼らはその独特な仮面に見覚えがあった。
というより、その仮面を着けそうな人間が思い浮かんでしまったのだった。
…三人ともその人物が同人物を想像していたのは交わしあった視線が何よりも如実に語っている。
ただ、それを口にするまでにかなりの時間がかかったのは、その仮面が、「彼」が着けている物より派手派手しく、はっきりと「毒々しい」と表現することをためらうほどの仮面であったからだ。
「違うかしら」
少女が口を開く。
沈黙。やがて返事を、と口を開いたのは趙雲だった。
「しかしこれであれば殿の趣味を…」
口に出せず、しぼんでいく彼の言葉に、二人は苦笑いを浮かべると、…小さく頷いた。
「文長殿、これ」
「アッタカ…!」
「ということはや、やはり…」
「助カル……」
呟き、大事そうに派手な仮面を抱きしめる魏延に、趙雲は殿に会いたい、そう今までとは違う意味でそう思ったのだった。
- 作品名
- disguises.(OROCHI趙姜星/魏延の宝物)
- 登録日時
- 2009/03/12(木) 00:00
- 分類
- 文::その他