「マーク」
少年は動きを止めた。瞬間、背中から引かれるような重みに、ふらっと視界が揺らいだ。
「だっ、なんだよ、なおりん」
ばたばたと崩れた体勢を直しながらの彼の言葉に、ひょこりと黒髪が覗く。
「マーク!」
彼は嬉しそうに笑うと稲葉少年の首に巻いた手を緩めた。
それは藤堂が抱きついた時のものだったが、稲葉が離せと言わんばかりに彼の腕を叩いているのだった。
「だからなんだってんだよー、暑いだろー?」
「別に用はないんだけどね、ん」
緩めはしたが、その腕より解放する気はないらしい。むしろ、彼は稲葉に構ってもらえたのが嬉しかったのか、彼の肩の上に自らの顎を乗せた。
「気持ち悪ぅ」
「ふふっ」
「……で、どうしたんだよ、南条か?」
肩の上の顎がぐらりと揺れる。
「いや、大したことじゃあ」
おそらく、唇を尖らせているのだろう、肩からはどこかくぐもった声が聞こえてきた。
「なにかあったんだな?」
ぷっ、と空気の抜ける音。
「しかられたんだ」
「……だと思ったぜ」
今度は稲葉が笑う番だった。
「お前いっつもそうだもんなあ」
「どういう」
「こういう、違うか?」
笑いながら稲葉は首を傾けた。二人の少年の頭がこつん、とぶつかった。
「反省したら謝ってこいよ」
「……マーク、ありがとうな」
「お互い様だぜ」
にいっと笑う稲葉少年の背中が、ふっと軽くなった。
「行ってくるよ」
背中越しに声を聞き、彼はあっと声を上げた。
「そういえばお前なんで」
振り返った少年の目に映ったのは文字通り苦笑いする少年。
「……それが」
「こけて南条を殴った!?」
素っ頓狂な叫び声が、ダンジョンの中に響いた。
- 作品名
- らくがき-20110704(1P/マークと主人公)
- 登録日時
- 2011/07/04(月) 00:46
- 分類
- 文::Persona(1~3P)