柔らかい笑みと、金色の蝶の羽根。
それがなければ、ひょっとしたら110番していたのかも。
窓の外、満面に広がる夜の闇を瞳にも託して、彼は寝ていた私をゆっくりと見下ろしていた。
「あなたは、だれ……?」
体を起こして絞り出した声は、ひどく弱々しくて。
わたしらしくない、なんて。
そんなわたしを見て、彼は瞳にかかった髪をかきあげ、哀しそうにその瞳を歪ませた。
“僕は、君”
「わた、……し」
“そう。”
とん、と手が打たれ、なにかがわたしの膝の上。紙?掴んだら、それはタロットカードだった。
“……君には、辛いことがたくさん待ってる”
「え?」
彼もまた、カードを1枚、手に取った。
「それって……」
“でも、僕が届かなかった可能性も待ってる、……悔しいけれど”
カードを眺めていた彼。不意にそのカードをわたしの前にしめしてみせた。ゼロ。fool。
パチン。
彼が指を鳴らした。小さな爆発音と共に、わたしの膝に広がるカードに煙があがって、……わたしが持っていなかった、選ばれなかったカードが消える。
“長い旅路に、幸あれ”
彼はそう言うと、そっとわたしに向かい合い、銃を構える。彼自身に向けて。
「なっ」
“銃は迷わず手にして”
「えっ」
“……これを”
チャリンという音と共に、小さな何かが掌に飛び込んできた。とっさに握りしめた。
“いつか、思い出して”
握りしめた手をゆっくりと解いた。中から出てきたのは、……小さな金属の塊だった。よくよく見ると竪琴の形をしている。
“僕は、君。何時だって一緒だから”
ふわっと彼の方から風が起こり、わたしの髪が視界を奪う。
「いたっ」
ちくちくと目に入る髪を払いわたしは彼の方を見上げた。
……彼、はいなかった。
「夢?」
ひとりつぶやいて手元を見ると、きらめく小さな竪琴。
わたしは首を傾げた。
それは、わたしが月光館へ向かう、少し前のお話、だった。
オルフェウスの竪琴
- 作品名
- オルフェウスの竪琴(3P・キタローとハム子)
- 登録日時
- 2011/06/12(日) 20:59
- 分類
- 文::Persona(1~3P)