ん、と覗き込んだ瞬間、緋色の綿埃は、すっと緑の葉の後ろに姿を消す。
「なんだ、こいつら」
馬超は呆れを顔に浮かべて口を開いた。それを耳にし趙雲は微笑んだ。
「伯約殿と遊戯で捕まえてきた金魚だ」
「へえ、けどやけに臆病な奴ら」
まじまじと眺めながら彼は呟く。
「どうやら出店の最終日だったようでな……」
趙雲はそっと瓶に指を浸す。
「半数程は直ぐに死んでしまった」
「半数ほどか……残酷だな」
「残ったのも酷く傷ついていた」
「なるほどな」
頷く馬超。
「人に怯えるのもやむなし、か」
「ああ」瓶を覗きながら趙雲も頷いた。
「だが、……きっと、懐いてくれるだろうと私は信じている」
「酔狂なことで」
肩をすくめる馬超に、趙雲は向き合うと微笑んだ。
「私には、前例が有るものだからな」
首を傾げていた馬超だったが、直ぐに真意に気付くと顔を朱に染め、
「人と魚を一緒にするんじゃない」と怒鳴ると鼻息荒く趙雲の部屋を飛び出した。
低く笑う彼の声も全く耳に入らない様子で。
そのまま、ドスドスと鼻息荒く歩き続ける馬超。だが、彼は気付いていた。
「餌を貰いに近付いたのは、だあれ?」
「馬鹿か!」彼はもう一度、声を張り上げた。
「子龍さん、俺、好きなんですよ」
遠くを眺めながら、彼はそっと口を開いた。
だが、返ってきたのは返事じゃなくて陶器の割れる甲高い音だった。
「何を言っているのだ馬岱殿私は男だと」
「へ?」「えっ」
二人は固まった。
わずかな沈黙の後笑い出したのは馬岱だった。
「子龍さん、なにか勘違いしてるでしょう」
と腹を抱えながら。
いや、しかし、などともごもごつぶやきながら慌てる趙雲。
それが一層笑いを誘うらしく、彼の笑い声は一層大きくなった。
「そうじゃなくって従兄の事だよ」
「あ、ああ」
「本当にわかってます?」
笑みをうかべ彼は趙雲に向き合った。
「従兄があんなに外で笑って怒るようになったのって子龍さんのおかげ」
突然の言葉にいまいち掴みかねたのか、趙雲は首を傾げたが馬岱は微笑むばかりであった。
「従兄をよろしく頼みますね」
微笑みと共に出た言葉に、趙雲はしばらくあっけにとられたような表情を浮かべていたが、やがて彼も微笑んだ。
「あー…えーと特別優しくする必要はあるのか?」
「全くないです、からかい倒してやってくださいっ」
- 作品名
- サルベージ-20110507(無双槍族&創作趙雲・馬岱)
- 登録日時
- 2011/05/07(土) 20:50
- 分類
- 文::創作三国志-その他