じりじりとアスファルトが焼ける。
僕はその中に立ち尽くしていた。
Pain
頬を押さえあっけにとられた僕に、山岡は容赦ない二発目を食らわせた。
痛みと、衝撃に、よろめくけれど、倒れないくらいの力。
「……山岡……?」
汗がたらり、と垂れ、黒い斑点が散る大地に新しく斑模様を彩った。
「痛かったですか?ぼっちゃま」
山岡は笑顔だった。
「あ、ああ、……すごく痛かった」
そっと僕の前に跪き、頬に自分の懐から飛び出したハンカチを当て、笑みを崩さず口を開いた。
「その痛みを忘れないでくださいませ、ぼっちゃま」
山岡の視線が地面を這った。
「この蟻達は、もっと痛い思いをしたのですよ」
あらためて、僕もそれを見た。
落とした砂糖細工に群がる黒い虫と、それが作り出した一本の道と、ぴくぴくと断末魔の苦しみに沈むそれとを。
「あっ」
小さく声を挙げた僕を、山岡は大きな手で包み込んだ。
「……ごめんなさい」
こぼれた涙が、熱を持った頬を伝う。
「ぼっちゃま」
「ごめんなさい、ごめんなさいッ……」
しばらく、僕は山岡の胸で泣いた。
辺りが赤く染まりだしたころ、目を腫らした僕の背中を撫でながら、そっと山岡は口を開いた。
「優しいひとにおなりください、痛みがわかる優しいひとに……」
「ディアラマ」
どこかやる気が空気漏れしたような声が聞こえ、俺は目を覚ました。
「起きた?」
逆光で顔は窺えないが、耳につけたピアスが「アイツ」だと説明してくれる。
「ていうか元気?」
「御陰様だ」
よっ、と息を吐きながら上半身を起こすと、……思ったよりも体が軽い。
「……生憎と調子がいい」
にっ、と笑う藤堂。だがすぐにそれは頬の痛みに滲む。
「南条くん無理したでしょう」
「していない」
ぎりり、と頬の痛みが強くなり、藤堂の笑顔に青筋が走る。
「この嘘吐きめ」
「何が、だ!」
負けじと俺も睨み返す。
「嘘吐き、南条くんの嘘吐き。」
それきり、沈黙が支配した空間を、あえて切り裂いてやることにした。
「成程……優しさを受ける事も優しさか?」
「そういうコトー」
藤堂はひまわりみたいな笑みを浮かべ、頬から離したその動きのままそっと手を伸ばす。
あいつはためらいなく俺の手をとる。
「じゃあマークたち待ってるから」
「……あいつ等にいろいろ言われるなぞ我慢出来ないからな」
「そういうコト!」
俺達は並ぶと歩き出した。
山岡、……これでよかったんだよな?
俺のつぶやきに、小さくはい、と声が響いたような、気がした。
- 作品名
- pain(P1・なんじょうくんと虫ネタ)
- 登録日時
- 2011/07/23(土) 02:56
- 分類
- 文::Persona(1~3P)