ふわり、とした違和感、続いて背中に軽い衝撃を受け、彼は背後を振り返った。
「マス」
「いいから」
――この人は、いつだってそうだ。
喉から出掛けた言葉を飲み込む。
「了解した」
しばらくの沈黙。主にとって、それが今求めるもの。なぜならば、喋る相手を求めるには自分は静かすぎる。
わかってはいるが、本当にこれでいいのだろうか、考え、せめてコーヒーぐらいは……彼がぼんやりと頭を回しながら槍の柄を拭い始めた、その時だった。
「……マシュが、倒れた」
続いてぐすっ、というしゃくりあげる音。
「それは」
返事はなかった。ただただ、自らの羽飾りのなか、ぐずぐずという音が響く。
「悲しい」
「こわい」
マシュを喪うことも、マシュ抜きで戦うことも。
主は呟く。
「こわいか」
「…ごめん、でも」
「そうか」
再びの沈黙。ざあざあと風の音と、主の音だけが彼らの世界に降り積もる。
「わたしは」 主が口を開く。
「やっぱり、……ううん」
たたた、と部屋の前を足音が通る。
「お願いが、あるの」
「……この羽根飾りは、隠れ家にうってつけだろう」
「あのね、」
背中の少女がしゃくり上げながら彼の名を呟く。羽根が、動く。
「よく言葉足りないって言われない?あるいは、」
「もっと話せ、か?」
ご名答。小さな声と、動く気配。 遠くで鳴く小さな生き物の、フォウ、というそれよりも小さく、少女は続ける。
「だから、いいの」
纏った隠れ家越しに、彼の背中に、そっと額が触れる。
「……ならば、望むままに」
- 作品名
- かくれが(FGO/カルナさんとぐだ子)
- 登録日時
- 2017/11/10(金) 01:34
- 分類
- 文::その他