ダングレストの街並みを、しなやかな黒髪が歩いていく。
リズムを打って歩いていた次の瞬間には、くるりと弧を描き、隣に立つ少女を巻き込むように。
あるいは、川の流れのように。
「どうした少年」
彼の隣を歩く、壮年の男性が声をかけた。
「レイヴン」
少年はいぶかしげに覗き込んでいる男性、レイヴンのほうに、歩きを緩めることもなく、顔だけで向き直る。
「ええと、良かったって思って」
「よかった?」
よくわからんねえ、とでも言いたげな表情の彼は、乱れた髪に手を突っ込むとガシガシと音を立てて頭をかく。やめてよね、と小さな抗議の声が上がるがお構いなしに音を立てる。ガシガシ。
「もう……でも、そう、よかった」
「ユーリが生きてくれてて、か」
少年は肯く。前を行く揺れる髪を眺めながら。
合わせて肯くレイヴンだったが、しばらく彼を見つめた後、ん、と一息、声を吐いた。
「それにしても素直じゃないね少年よ」
続けて、肩をすくめて見せる。
「それ、どういう意味?」
口をへの字にゆがめ、少年もまた、彼に向き直る。
「そんなに嬉しかったんなら、ばぁってよ、抱き着いちまえばよかったのに」
へっ。幼さの残る素っ頓狂な声に、前を行く女性陣が一瞬視線を投げるが、すぐに自らのおしゃべりに戻っていく。
「何言ってるんだよ、」
「いやいや少年、許されると思うよぉ?」
肩をすくめるレイヴン。そのまま、カロルの背後へ回り込む。
「エステルじゃあるまいし、ユーリだって嫌がるよ」
彼は、それに気づかなかった。
「そぉお?おっさんからしてみたらどっちも子供で変わらないねえっと!」
レイヴンに、思い切り背中を蹴られるまで。
さすがは歴戦の戦士。騎士団仕込み。
カロルは言葉にならない叫び声を上げながら、目の前の青年に向かって飛び込んでいき、
「か、カロル!?」
こちらもまた、騎士団仕込みの身のこなしを発揮したユーリの胸元へ飛び込む。
「ごめんユーリっ!」
しっかり支えてもらったおかげか、素早く体勢を立て直し、振り返る。
「何するんだよレイヴン!」
反省の色のない表情で、片手を挙げて笑むレイヴン。
「ごめーんね、ゆる」
そのまま、
「さないから!」
とさえぎるカロルの言葉をぶった切り、いずこへかと走り去った。
そんな彼を追うカロル。
「夕飯までには帰って来いよー」
走り去る男性ふたりに、手を振るユーリ。そんな彼のそばに、一人の女性がそっと歩み寄る。
「いいの?」
彼女は、つん、と彼の頬をつついた。
「あなただって少しは嬉しいんじゃないの?」
肩をすくめるユーリ。
「だからってベタベタベタベタするのは」
「おかしいわね、少なくとも好んで見たいものではないわ」
彼の言葉をつなぎ、ふふっ、と微笑むジュディス、
「さすがジュディ、よくお分かりで」
片手をひらりと挙げ、女性陣のもとへ去る彼女へ言葉を投げた。
彼女の靴音が離れ、一人雑踏に残された彼。
もう、追っかけっこをしている男性たちの気配もない。
――凛々の明星の相棒だからな、顔みりゃわかるよ。
けど、……ちょっと嬉しいんじゃないのか?
ひとり呟くユーリ。
だが、その呟きは喧騒に掻き消され、誰の耳に届くこともなかった。
- 作品名
- Returned.(TOV/カロユリ?)
- 登録日時
- 2018/09/02(日) 23:15
- 分類
- 文::その他