胡座をかき、彼は船を眺めていた。
ただ、ひたすらに無言であった。
彼を中心に、凍り付いた空気が広がり、いたたまれなくなったらしき青年、姜維が隣の青年にどうしたのですか?と訊ねた。
隣の青年、趙雲はふ、と溜息をつき、彼の耳元にそっと口を近づける。
「先程の戦いで孟起殿は喬姉妹に太刀打ちできなかったようだ」
ああ、と半ば納得しつつ、彼を眺める姜維。
「でも、確か喬姉妹のふたりは大将軍…」
「それで納得できるような孟起殿か?」
ん、と姜維は息を吐く。そんな彼を眺めながら趙雲も口を開く。
「しかし落ち込みっぱなしというのも困りものだな」
「励ましに行きますか」
「だな」
目を合わせ、頷くと、彼らは船を眺める青年、馬超の両脇に立つ。
「孟起殿、そろそろ元気を」
「孟起殿、再戦の機会があるだろう?」
そのまま、肩をぽんっと叩いた。
「おい」
しかし、返ってきたのは低い声。
「孟起殿?」
首をかしげ、彼を覗き込んだ姜維が気付かぬ間に肩に回された腕に押され、彼の胸元へと転がり込む。
「ど、どうしたというので…」
突然のことに慌て、唯一自由になる顔を上げた姜維の目の前に
「も、もう…!」
と、目を丸くした趙雲の顔が大写しになった。
ごつん、という鈍い音と青年たちの唸り声。
彼の胸元に抱かれた青年たちは思わず不満を口にする。
「孟起殿!行き成りなんですか!」
「どういうことだ、説明はしてくれるのだろうな」
だが、返事はない。……不思議に、いや、不気味に思った二人はそっと上を見上げた。
いや、見上げようとした。だが、見上げる力より強い力で、ぐぐっと下に押し下げられた。
「……そこまで悔しかったのか」
それ以上押し下げられると諸葛亮辺りに見つかったときにからかいの対象とされてしまいそうな体勢になるため、必死にその手に抗いながら、彼は訊いた。
返事はない。
「悔しかったんですね」
姜維が続ける。矢張り無言である。
彼の太ももを睨みながらも、趙雲と姜維は、自由になる腕を、そっと彼の背に回したのだった。
20090310-悔しかったんだね。
20090304-花は乙女、雑草は…?
3人で9題のお題/From:シージェイズさん
- 作品名
- 03 君らちょっとおれを抱きしめてくれるかい(無双Emp.槍族)
- 登録日時
- 2009/03/10(火) 00:00
- 分類
- 文::ジャンルごちゃまぜ9題のお題