ぎい、と低い音がして、ドアがゆっくりと開く。
部屋には、一人の少女がいた。
しかし彼女はよほど深い眠りの縁にいるのか、机に伏したまま動かない。
顔を覗かせ、こっそりとそんな彼女を覗ったザードは、一旦顔を引っ込めると、後ろを振り返る。
「寝ているのか」
「ああ」
後ろに立つロナードに訊ねられ、ザードは頷く。
今のうちだな、ロナードの隣に立つハントがニッと笑い、呟いた。
がさがさ、という音が部屋の中に広がる。
そんな部屋に、違和感を感じた少女、ラナはゆっくりと顔を上げた。
そして、え?と声を上げ、あたりを見回した。
彼女の目に映ったのは、一面の花畑だった。
部屋にあふれかえる、黄色、赤、ピンク。
まるで絵の具を溢したような鮮やかな色が、立ち尽くす三人の男性と共に飛び込んでくる。
ふ、と彼女の瞳と一番近くにいた男性…というよりは少年の、瞳が合った。
一瞬気まずそうに見つめる彼であったが、すぐに口を開いた。
「ら、ラナ…起きちまったのかよ」
その胸には花を抱いて。
彼に似つかわしくないその組み合わせに、きょとん、としたラナだったが、やがてくすくすと笑い出し、そんな彼女を少年、ザードはなんだよ、と呟きつつ睨み付ける。
だが、そんなことを気にした様子もなく、彼女は席を立つと近くの花束を手に取った。
「どうしたの?この花」
「どうしたってそりゃ…」
言い淀むザード、彼に代わり、
「エリオルのことで落ち込んでたから、励ましたかったそうだ」
ロナードが言葉を続け、ハントがうんうんと頷き、ザードに近づくとその頭をがっしりと掴む。
「気障だよな、こいつ!」
「やめろ、離せって!」
掴んだハントの手をぽかぽかと殴りながらじたばたと暴れるザード。ラナはそんな彼に近寄ると顔を覗き込み、
「本当?」
と訊ねた。
そんな彼女と目を合わせないよう暴れていたザードだったが、やがて彼を見つめるガーネットの瞳には勝てず、
「あ、ああ…本当だ」
と観念したように言葉を漏らす。
そのまま、ガーネットの瞳は、つつつ、と彼の頭を掴んでいるハントの方へとうつる。
「ね、おじさま」
「ん、どうしたんだ、ラナちゃん」
不思議そうに彼女を見つめるハントに、
「ちょっとその手離してもらっていい?」
にっこりと微笑んだ。
「ん?…ああ、構わないぜ」
少年の頭をしっかりと掴んでいた手が離され、そっと彼女の手が伸び、彼は頭にふわりとした何かの感触を感じた。
おい、とザードは顔を上げようとした、だが動かないで、という鋭い声にぴたりと停止する。
「…なるほどな」
そして彼を見つめ何かを納得したようなハントの声。
ロナードも何故か微笑んでいる。
「な、な、なんだよ」
わけがわからず、未だにやにやと笑んでいる彼らを睨むザード。
「おじさまとロナードはちょっと待っててね」
おうよ、わかった、とそれぞれの返事を聞き、ラナは再び花畑に腰を下ろす。
「なんだよ」
よく解らないまま、ザードは頭に手を伸ばし、何かに触れた。それをたぐり寄せ、壊れぬように開いた両手の上にそっと乗せた。
そこには、黄色の綿毛のぬいぐるみのような物がちょこんと在った。
「可愛い冠だよな、お前には似合わないけどよ」
にやにやと笑いながら彼を見つめるハントの頭に、同じような綿毛の固まりが後方より着地する。
それを見、ロナードはそっと手を差し出した。彼女が背伸びをしていることに気付いていたからだった。
「おっさんの方が似合わねえよ」
黄色と青の綿毛をそっとその手の上に置くと、ラナは彼の側に歩み寄った。
「ね、このお花全部買ったの?」
そっと低い声で訊ねる。
「んなぁこたあない!イケてるスナイパーには何でも似合うんだぜ?」
お互いの冠について話し込んでいるハントとザードにちらりと目を向けながらロナードは首を僅かに横に振った。
「…パルミア平原で摘んできた物だ」
「イケてるか?」
目を細めポーズを決めるハントを見つめるザードだったが、ラナの笑い声に思わず固まる。
彼女もすぐにそれに気づき、ごめん、と少し舌を出した。
そして、三人に向かい合うと、ぺこり、と頭を下げた。
「ありがとう、おじさま、ロナード、…ザードっ」
そのまま、三人へと抱きつくのだった。
20090317 - いけてるスナイパーは花が命。
3人で9題のお題/From:シージェイズさん
- 作品名
- 08 野郎三人お花摘み(フラハイ圧縮)
- 登録日時
- 2009/03/17(火) 00:00
- 分類
- 文::ジャンルごちゃまぜ9題のお題