集中力には限界がある。
ふっ、と訪れたその谷間に、姜維は「それ」に気がついた。
しんしんと冷えるその冬を乗り切るため、と薄く垂らされた紗の向こう、人影がゆらりとそれを揺らしていることに。
「どなたか、ご用ですか?」
夕闇の混じる薄青の日差しの中、意味もなく紗を揺らす者など珍しく、ふ、と髪を揺らし彼は呼びかけた。
人影もそれにすぐ気付いた様子で、ゆらりと揺らす手を止め、彼に応えた。
「そこは冷えますよ」
言葉を発しないその人影に向かい姜維はそっと声をかけると立ち上がった。
そして首を傾げながら窓辺へと歩み寄り、枠に手を添え人影を窺う。
「……孟起殿?」
彼の言葉に答えるように、部屋の外よりそっと手が伸び、ふわりと舞い上がった紗の向こう、笑みを浮かべた青年が彼を見つめていた。
「よ」
彼は姜維を認めると片腕を挙げた。
「どうしたんですか?」
自らの頭に手を伸ばしながら彼は問いかける。
「や、なんてことはないんだが」
窓の外側が僅かに下がっているため、上目遣いで彼を見上げながら馬超はへへへ、と笑った。
「仕事なら手伝いませんよ」
纏めていた髪に手を這わせ、頭に巻きつけた紐に触れる姜維。
程なくして彼の髪はさらりと広がった。
「そういう訳ではなくてだな」
「じゃあ、一体」
手にした紐を紗に滑らせながら彼は馬超を見つめた。
「遊びに来ただけだ」
先程までの彼自身の髪のように、紗を纏めながら訝しげに眺める姜維に向かう。
「なら外から来なくても」
苦笑いを浮かべ、彼は紗から手を離した。
「寒くなかったですか?」
そして馬超と向かい合う。
馬超もまた、彼をじっと見つめた。
「……少しな」
じゃあ、と開いた口は、言葉を最後まで紡ぐことは出来なかった。……ただ、急に手を引かれた勢いに、ひっ、と空気が出たのみ。
重なった、二つの影が、部屋に差し込んだ。
悪い夢を見た、温かいな、そう呟いた馬超に、小さく姜維も頷く。
そして呟いた。私はここにいます、と。
- 作品名
- きょういめいにち(無双馬姜)
- 登録日時
- 2011/01/18(火) 00:00
- 分類
- 文::三國無双