「南条くん」
糸のように細くなった視界に映るのはピアスをきらりと光らせた少年。
「なんだ、藤堂か……お前が話しかけてくるのは珍しいな」
応える南条は自らの腰ほどまでの長さのある剣の身を拭いながらその視界を広げた。
「ディア」
手から癒やしの光を生んだ藤堂に、軽く会釈で礼の意を伝える。
彼もまた、笑顔で応え、そして空を仰ぐ。
「迷いの森かあ、南条くんさ、正直面倒じゃない?」
「面倒とは?」
少し年上の女性を守るように数歩先で手を振る二人の少年。藤堂は彼らに手を振り追いかけるように歩き出した。南条も続く。
「マキのこと。」
「……正直、面倒」
首を振る南条。
「面倒だった。非効率極まりない。だが、」
「けど?」
南条は彼に並ぶ。彼は先を行くひとりの少年を視線で示した。
「稲葉に殴られてどうでもよくなったのかもしれないな」
視線の先、黄色のニットが目印の少年、稲葉はある一方を指差し、何事かを叫んでいた。
「……そうかもしれない」
困った顔の女性と、言い争う少年達を見、藤堂も同意の言葉を口にした。
「後は、ここまで来てしまったからには園村に言ってやらんと気が済まん」
「何を?」
ぎゃあぎゃあと言い争う声が彼らの耳にも入ってくる。
「貴様の理想は迷路を作ることか!とな」
えっ、と声を上げた藤堂。だがすぐにその意味を理解したのか、ぷっと噴き出した。
「……南条くんも苛立っていたのか」
「当たり前だ、なんだこの森は」
「なんだろうね。あっ、さっきからマークとブラウンが言い争ってる道、」
急に名前を呼ばれ、戦いを中断し、振り向く二人。
「なんだぁ?」
「どうしたんだよ」
「俺は稲葉が正しいと見た」
よっしゃ!と声を上げる稲葉。
「南条もそう思うだろ!」
喜び、まだ
「信じらんないぜぇ」
と叫びつつも方向転換した上杉と共に女性の背中を押しながら駆け出した。そんな彼らを呆れたような目で追っていた南条は、やがて後ろの少年の笑みに気づいた。
「何が可笑しい」
「……別に」
そのときであった。彼らの進行方向はるか先、少年の、さほど高くない叫び声が響き渡った。
あわてて踵を返す南条。
「仕方ない奴らだ、行くぞ」
「了解」
南条の背中を目で追いかけ、少年は心の中でつぶやいた。
頬にかけたつもりの、さっきのディアはいらなかったかもな、と。
- 作品名
- メモ(fromつなび・南条くんと主人公)
- 登録日時
- 2011/07/02(土) 02:51
- 分類
- 文::Persona(1~3P)