裾を引く指。
「こわい」
何を言うか今更。この軍師は。
そう言いたいのをぐっとこらえ問いかけた。
「火が、怖いのですか」
夕焼けより焦げた空は、血のように赤く、明るい。
「……違います」
布一枚隔てた指が、小刻みに恐怖を伝える。
「まもなく、迎えの船が来ます。こらえてください」
「はい」
指先のそれを隠しもせず、はっきりと返事は彼の耳に響いた。
ひょっとして。
彼は口を開いた。
「私の命ぐらい、自分でどうとでも出来る。お前に責任を取られたくない」
ぴたり。
指の震えがわずかの間、止まった。
「ばかですか」
「なにがだ」
「さっきから見当違いもいいとこです」
「だけれど、外れでもない、違いますか?」
「その、馬鹿にしたような、さっきからの敬語」
遥か遠くより、ごうごうと炎の渦巻く音。
「敬語でも使わないと、怖くて仕方がないのは私も一緒だ」
「え?」
「嘘だ」
口にした瞬間、背中に衝撃。
「ばかですか!」
「さんざん振り回した仕返しだ」
次々と背中に襲い来る衝撃に、思わず笑みがこぼれた。
目にうつる、赤い空を、背負った命を「こわい」と言える貴方となら、私は人でいられる。 それだけでいい。
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赤壁からの帰りの話。
- 作品名
- らくがき in 赤壁:趙雲&孔明
- 登録日時
- 2013/03/30(土) 02:28
- 分類
- 文::創作三国志-孔明&趙雲