「バッター、どうしたんだい」
ケラケラと乾いた様な笑い声をあげたザッカリーに、彼は微動だにせぬまま応えた。
「頼む」
「……へえ、改まってどうした」
僅かにバッターの眉間に皺が寄る。続きの答えを待つがしかし、彼はなかなか言葉を口にしない。
「俺はいいぜ、一刻を争うことはないだろ?」
それでもなお、言葉はない。
だが、彼の態度には変化があった。
ダンっという音と共に叩きつけられたのは、黒いネクタイ。
「これを」
「売るのか?しかし……」
「違う」
なんなんだ、呟きながら、ザッカリーはそれを手にした。
プラスチック?……にしては不思議な感触だ。
きっと市販のものではないのだろう。
しかし、これを売らないとなると……
「俺はエスパーじゃないんだ、答えてくれよ」
さらに暫しの間――バッターの周りを飛び交う二本の輪が、どうやら疲れたらしく、地面にへたりこむぐらいの時間はゆうにあっただろう――、の後、彼は観念したように口を開いた。
「結んでくれないか」
ザッカリーの耳に珍しいを通り越したお願い、思わず漏れた空気は、はあ?という言葉を成していた。
「しかしユニフォームにネクタイ、な」
バッターの首もと、垂らされた二本の布に、手が触れた。
「変だろうか」
「普通、じゃあないだろうなあ」
彼の、バッターの視線が一瞬鏡に映った自らへとうつるが、すぐに目を戻す。
「悪いことか」
「いいや、仕事の鬼、いいじゃないの」
手を左右へと動かし、織り上げるように結び目をつくる。
「遊園地で貰ったものだ、」
なるほど。内心呟くザッカリー。景品ならば、この不思議な感触も納得がいくものだ。
「住宅街に入るにはこれしかないと思った」
「本当に、仕事の鬼だな」
「それが任務だ」
「そうか」
輪に通したネクタイを軽く引き下げ、彼はとん、とバッターの胸元を叩いた。
「これでよし」
「すまない」
彼はカウンターを飛び越え、肉に手を伸ばす。
「すまないと思うなら有り金はたいていってくれ」
そうしよう、と答えるバッター。
バタン、と大きな音を立てドアが閉まった。
――閉まったから、バッターはきっと気付かなかっただろう。
「ユニフォームにネクタイ、感想をお前自身に聞けたら良いだろうな」
と呟く声に。
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ザッカリーが難しい。
- 作品名
- necktie(OFF-ザッカリーとバッター)
- 登録日時
- 2016/11/08(火) 02:20
- 分類
- 文::フリゲ